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水戸地方裁判所下妻支部 昭和30年(ワ)85号 判決

原告

武笠一郎

被告

飯村清 外三名

主文

被告等は原告に対し連帯して金弐萬円及びこれに対する昭和三〇年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告等の連帯負担となる。

この判決は金七〇〇〇円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

成立に争いのない甲第一号証、甲第四乃至第一三号証及び証人松田松男(後記信用しない部分を除く)青木治三郎、太田茂、笹島欽哉、武笠本一の証言ならびに原告本人尋問の結果によれば、原告は当時二二歳で父親が主体である家業の農業に従事していたものであるが昭和三〇年四月一五日友人松田松男と下妻市大字大宝所在大宝八幡神社例祭の見物に行き、同所で焼酎を飲み両名共相当酔つた上同日午後七時半頃同社鳥居前県道を通り掛つたところ、右松田と被告稲葉がぶつつかつたことから口論の末喧嘩となり、双方互いに相手を殴り合つているうち、被告稲葉は自己が劣勢になつたので、あいくちを取り出して原告の左手に切りつけたので原告がその手をつかんで同被告を投げ飛ばしたところえ他の被告らが加勢にかけつけ被告富山は、あいくちで原告に切りかかりその右大腿部を突き刺した。そのため原告がしやがんだところを他の被告三名が殴つたり蹴つたりしたこと、その結果原告が右大腿部に全治五〇日間を要する刺創を負つた事実が認められ、右認定に反する証人松田松男の証言の一部は措信し難い。而して原告に直接手を下して本件傷害を負わした者が被告富山であることは認められるが、原告と被告ら四名は互いに対立して闘争を行つていたのであつて、被告ら四名は互いに他の被告らを助勢し合う状態で、本件傷害の結果を発生せしめたのであるから、被告四名とも互いに共同行為の認識はあつたものというべきであつて、民法第七一九条の共同不法行為者として各自連帯してその損害賠償の責に任ずべきものである。

よつて進んで原告の受けた損害の額について考えて見ると、成立に争いのない甲第二号証の一乃至四ならびに証人武笠本一、鴇田信夫の証言によれば、原告の主張する(一)医師の治療費一〇、六七〇円、(二)治療のための往復自動車賃八〇〇円、(五)氷代九〇〇円、(七)リヤカーで原告を医師のもとまで往復させた者への謝礼三、五〇〇円、(八)洋服洗濯料三〇〇円、合計金一六、一七〇円は原告が本件不法行為の結果蒙つた損害と認めることができるが、(三)の原告の休業による損害及び(四)の看護費については、原告の家の農業の経営の主体が原告ではなくてその父であることは原告自ら主張するとおりであること、ならびに原告の看護にはその母が当つたことが証人武笠本一の証言によつて認められるのであつて、この結果農業に原告とその母とが従事できなかつたために生じた損害としては、農業経営の主体である右父親が自ら請求するならば格別、原告からその賠償を求めるのは失当である。(六)の見舞返しの品物代については、見舞返しなるものが見舞に貰つた物又は金員に対する返礼の意味ならばその価額を超過することは通常あり得ないことであるし、また単なる見舞来訪に対する返礼であるとすれば、この支出と本件傷害の結果との間に当然因果関係ありとは云い得ないし、この点について特段の事情を原告が主張立証しない以上原告の蒙つた損害となし難いことは当然であるからこの分の原告の請求も失当である。なお原告はその他の損害として金一四、九六〇円の支出をしたと主張するがその内容については全然明らかにしないし、この分の支出に関する証人武笠本一の証言は措信し難いからこれもまた認めることはできない。

次に本件傷害の結果原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰籍料の額については、被害者原告の年令、地位、職業、傷害の部位程度(本件刺傷が全治したことは証人鴇田信夫の証言によつて認められる)を綜合して考慮すると金二万円が相当である。

そこで被害者原告の側に過失があつたかどうかについて考えて見ると、そもそも本件傷害の原因となつたのは原告及び前記松田松男が飲酒酩酊の上通行中、被告稲葉と突き当つたことから口論の末殴り合いの喧嘩になり、当初原告の方が優勢であつたところえ他の被告らが加勢にかけつけた為生じたものであつて、原告の側にも本件傷害の結果を発生せしめるについて過失がなかつたものとは認め難いから、損害額についてはこれを斟酌するのが相当である。しからば被告らの原告に対し賠償すべき損害額は財産上の損害に対するものとして金一五、〇〇〇円、慰籍料として金一五、〇〇〇円、合計金三〇、〇〇〇円を相当と認める。

而して被告稲葉が連帯債務者の一人として金一万円を原告に交付したことは当事者間に争いがないから結局原告の支払を受くべき金額はこれを控除した残額金二万円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三〇年一〇月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による金員の範囲に止まるべきであるからその限度において原告の請求は正当としてこれを認容し、その余の部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条年九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 海老原震一)

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